件名:中学校学習指導要領案ついて
〔要旨〕
部活動が「生徒の自主的,自発的な参加により行われるもの」である旨を,各学校は生徒およびその保護者に周知徹底する必要があります。
〔意見〕
参照:中学校学習指導要領案 11頁
ウ
教育課程外の学校教育活動と教育課程の関連が図られるように留意するものとする。特に,生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化,科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等,学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際,学校や地域の実態に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行い,持続可能な運営体制が整えられるようにするものとする。
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上記に記載がある通りに,部活動の運営体制を整えることが重要です。上記の中学校学習指導要領案を実現するためには,学習指導要領の解説(総則編)に,以下の文言を明記することが必要だと考えます。
「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動」について,学習指導要領の解説(総則編)に以下の文言を記載してください。
【解説(総則編)に記載する文言】
部活動は,生徒の自主的,自発的な参加により行われるものであり,各学校は生徒およびその保護者にこの旨を周知徹底する必要がある。各学校が校則および生徒会規約等において全生徒に部活動への参加・加入を義務づけることは生徒の人権侵害に該当するので不適切であり,これを禁ずる。
【上記の文言を解説(総則編)に記載すべき理由】
現状では,各学校において,生徒が部活動への参加・加入を強制されている実態があります。前回の学習指導要領(総則編)は平成20年に告示されており,そこに「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動」という記載があったにも関わらず,いくつもの学校が指導要領に違反し,生徒に部活動への参加・加入を強制している実態があります。これは,生徒の人権侵害に該当する,許されてはならない不適切な部活動運営です。『東京大学大学院教育学研究科紀要(註1)』によると,平成20年に8都県(岩手県・東京都・新潟県・静岡県・奈良県・香川県・山口県・鹿児島県)の全中学校を対象に調査を実施した結果,「部活動への加入を学校全体として生徒に義務付けている」中学校の割合が0%という都県は存在しませんでした。加入を義務づけている割合が最も低い鹿児島県でも6.3%,最も高い岩手県では99.1%の学校が,生徒に部活動への加入を義務づけていたことが明らかになっています。これは,学習指導要領に定められた部活動のあり方から逸脱しています。学習指導要領が全国の基準である以上,これを冒す学校が1%もとい1校でもあってはなりません。平成20年以降の調査結果(註2)としては,島根県では平成23年度時点で中学校の45.0%が全員加入を原則としています。平成23~27年度においては,岩手県盛岡市,埼玉県志木市,埼玉県熊谷市,岐阜県下呂市が,生徒に部活動への加入を義務づけている事実が明らかになっています(註3)。以上の実態から,平成20年に告示された学習指導要領に記載のある「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動」というあり方から逸脱したままの学校は,全国に複数あることが推定されます。他ならぬ学校教育の場において,部活動への加入を義務づけるという生徒の人権を侵害する営みは,教育的な観点から鑑みてあってはなりません。しかし,現実には,残念ながらそうした学校が少なくありません。平成20年に告示された学習指導要領における部活動のあり方に反する学校が,現時点で複数ある以上,今回の学習指導要領の解説(総則編)に上記【解説(総則編)に記載する文言】の通りの記載をし,周知徹底を図ることが必要です。
(註1)中澤篤史・西島央・矢野博之・熊谷信司(2008)「中学校部活動の指導・運営の現状と次期指導要領に向けた課題に関する教育社会学的研究」『東京大学大学院教育学研究科紀要』48: 322-323頁
参照URL https://goo.gl/cFtAcw
(註2)
島根県教育庁保健体育課(2011)『平成23年度 運動部活動(課外活動)に関する調査結果』7頁
参照URL https://goo.gl/H9qS3C
(註3)
内田良(2016)『自治体ぐるみで部活動の強制加入 市内の中学校に「未加入の生徒はいない」』
参照URL https://goo.gl/i059E2